豊かな生物多様性を確保するための、具体的なしくみを ②(2011.6)
私たちの提案
長野県には自然環境保全条例、公共事業等環境配慮制度など、実は、運用によって生物多様性の保全に活かすことのできる枠組みがあります。どう具体的に運用していくのか、そこの議論を進めていく必要があります。
理念レベルでとどまらず、行政の縦割りや、年度の区切りを超えて運用できる具体的な「しくみ」をどうつくっていくのか。現状の課題を踏まえて、いくつかの提案を出してみます。
* 民間事業も公共事業も一定規模以上の事業に対して、計画の基本設計があがった段階で、現地での予備調査を義務づける。希少な植物の群落があるか、大型猛禽類が生息しているかどうか、といったことは、季節を選んで踏査すれば、少し丁寧な踏査程度でおおよそ把握できる。早期に把握できれば調査費や工事費の無駄も防ぐことができる。
* この現地予備調査をした上で、環境調査および保全対策が必要かどうかを判断する。その場合、調査者が、「調査(保全対策提案)〜設計〜工事〜事後評価」を通じて関与できるしくみをつくり、予算化する。調査者の関わりは年度ごとに区切らない。
* 調査と保全対策の必要性をどう判断するのかが大きな課題である。「自然環境は大事」という大義名分のもと、過度な調査や保全対策が行われることも危惧される。
* 事業と環境配慮の経過およびモニタリング結果をデータベース化する。希少種の位置などを除き可能な範囲で、これらを情報公開する。
* 長野県には「環境保全研究所」があり、長野オリンピックのその後の総括といったテーマで、第三者的な立場で客観的に評価しようと取組んでいる例もある。この環境保全研究所を、調査研究だけではなく、長野県全体の環境施策という観点から展開していくことができないか。
「生物多様性の保全」という流行のテーマに乗ることは簡単ですが、それを具体化するのは容易ではありません。歴史を振り返ると、「自然保護」は時代によって大きく翻弄される可能性をもっています。長野県は、観光も含め、豊かな自然の恩恵を受け、そして多くの開発の波にさらされてきました。しかしだからこそ、他の地域よりも先に進んでいく力をもっているのではないでしょうか。
自然保護か破壊か、の二者対立ではなく、地域や社会環境も配慮に入れながら自然環境をどう位置づけて活かしていくのか、という前向きで具体的な議論を進めていく必要があります。
(写真はトチノキの巨木。昔から日本人は巨木に神様の姿を映してきましたが、巨木を目の前にすると、理屈抜きに荘厳な佇まいを感じます。この場所には10年以上前に計画された林道の工事が迫っていました。)