コラム自然環境-1

 豊かな生物多様性を確保するための、具体的なしくみを ①(2011.6)


 昨年から、長野県が生物多様性地域戦略の策定に着手しました。検討委員会も発足しており、今年度中に長野県としての行動計画としてまとめるようです。こちらLinkIcon

 その経過の中で、県民(5人以上の団体)から意見や提案を聞く「生物多様性地域懇談会」という場が設けられ、昨年から今年3月にかけて、32回の懇談会が開かれました。
 私たちも「信州環境技術ネットワーク」というグループで、県自然保護課の方と平成23年3月16日に意見交換を行いました。そんな議論の中から一部を、今回お伝えします(懇談会で私たちが提出した要旨はこちらから参照できます)。

 私たちはこれまでの業務で、特に公共事業を実施するにあたって、動物や植物などの環境調査を行い、そしてそのデータに基づき、自然環境保全について数多くの提案を行ってきました。今回は、「特に公共事業において、生物多様性を保証していくためのしくみが形骸化している」という点を指摘しました。

大規模な開発は環境影響評価を行う


 一定規模以上の大規模開発については、国の「環境影響評価法」、長野県の「長野県環境影響評価条例」といった法令で、事業を行う前に環境調査を行うことが義務づけられています。この制度は「環境アセスメント」とも呼ばれます。例えば、県条例の基準は、「一般国道、県道は、4車線以上かつ長さ7.5km以上」「ダムの建設は森林区域等の貯水面積30ha以上」(いずれも第2種事業)の場合は環境アセスメントをおこなうことが義務付けられています。ただ、これらの規模は一般の市民感覚からすると、かなり規模の大きな開発事業です。例えば風力発電施設、廃棄物処理施設の建設などがありますが、長野県内で2〜3年に1例ある程度です。現在は上伊那広域連合新ごみ中間処理施設建設事業が手続き中です。

 この制度の大きな問題点は、開発側が調査を行うことです。そのために「環境アワスメント」などと揶揄されるように、多くの場合、開発側に都合の良い調査結果が出されることになるのですが、これはしくみ上、十分あり得ることと考えます。これは民間で特に顕著だと言われますが、公共事業も同じです。

 この他にもう少し小規模でも自然公園内で開発を行う場合は、別の県条例に基づいて自然環境の調査とそれに基づいた配慮が行われることになっています。


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        写真:ヤマシャクヤク(環境省および長野県 準絶滅危惧種)と生育するブナ林
      長野県の豊かな自然を、社会の中でどう位置づけていく?



小規模の開発、特に公共事業の環境配慮の現状


 上記以外で、小規模の道路や砂防ダムを造ったりする公共事業の中には、自然環境を保全するための調査を行い、対策を実施する事業があります。環境配慮を行うかどうか、明確な基準があるわけではありません。これまでの事例を見ていると、事業を実施する場所が、特に自然環境が豊かな地域と言うよりも、地元からそういった配慮を求められる場合に行われる傾向が強くなっています。ただ、最近の傾向として、猛禽類だけ何年も詳細に調査していながら、環境調査そのものの実施率は以前と比較して低くなっています。

 私たちが協力する場合も、多くはそうした地元の指摘や要望があることが多く、動植物や地形地質などを調査して、保全対策を提案したりします。
 わかりやすい例として、ちょうど工事がかかるところに、エビネなどの貴重な植物を見つけたとします。そうすると、なんとか工夫して現状保全できないか検討して提案しますし、どうしてもダメな場合は最終的な手段として移植を提案します。

 その際、調査結果に応じて計画変更をできる例は珍しく、すでに土地買収も終わり工事目前である場合、時には工事が発注された後から環境調査をする場合もあります。工事方法や設計で、なんとか現状保全できる方法を提案するのですが、工期や予算上、はじめから保全するには非常に厳しい条件で調査を行っているのが現状です。しかも次の年には役所の担当者も変わり、業者も変わり、経過がよくわからなくなっていて、保全対策がなされないまま、工事突入・・・なんていうことが実際にはあります。

 何のために調査をしたのか、行政も業者も、「調査した」ことが免罪符になっていないか。調査が無駄だったということになれば、税金の無駄遣いともいえます。そういう例をこれまで少なからず、経験してきました。

 中には経過を理解し、できる限り最善の保全対策をしようとがんばっている行政担当者もおられます。でも「しくみ」として確立していかなければ、同じことが繰り返されていくでしょう。

 また保全対策までできたとしても、その3年後、5年後、どうなったのか、調べられている事業はほとんどなく、現在のところ、何の検証も蓄積もできていません。植物の保全対策には「移植」という手段がよく使われますが、一体、移植した植物のどれほどが残っていくのでしょうか? 私たちが調べた事例(長野オリンピック関連)では、何十株も移植したけれど、10年後ほとんど残っていない場所もありました。こうなると、移植は保全対策とは言えないのではないかという議論も出てきます。